インヴェンションズ・フォー・エレクトリック・ギター/アシュ・ラ・テンペル
Inventions for electric guitar/Ash Ra Tempel

1.エコー・ウェイヴス
2.カサースフィア
3.プルラリス

1974年作

 2004年の今だから言えることだが、アシュ・ラ・テンペル(マニュエル・ゲッチング)の歴史の中で一番重要な作品がこの「インヴェンション・フォー・エレクトリック・ギター」であると私は思う。その理由はこのアルバムが90年代以降のハウス/テクノ/トランス世代に受け入れられることになった彼の音楽世界の出発点となる作品だからである。そして、ここからアシュ・ラ・テンペルはマニュエル・ゲッチングのソロプロジェクトとして活動を始めることになる。

 アルバム・タイトルからも理解できると思うが彼はエレクトリック・ギターによる全く新しい音楽を生みだそうと試み、そして、新しいエレクトリック・ギター音楽を発明したのだ。Music and effects are played with electric guitar only.There are no other insturuments.アルバム・ジャケットの裏面に記載されているように彼はエレクトリック・ギターと4チャンネルのティアックのテープレコーダーだけを使って、この作品を完成させた。オーケストラや壮大なコーラスを導入した華々しいサウンドが世の中をにぎわせている時代に、余分な贅肉をそぎ落とし、未来に通じるオリジナルなサウンドを作り上げたのである。

 このアルバムでのサウンドを簡単にミニマル・サウンドだと言っても良いのかも知れないが、それではあまりにもぶっきらぼうすぎる。ミニマル・ミュージックとして馴染みの深いアーティストにスティーヴ・ライヒやフィリップ・グラスなどがいるけれど、マニュエル・ゲッチングのサウンドはあそこまでクールで突き放すような感覚はない。ミニマルではあるけれど、感情のニュアンス、あいまいでモヤモヤとしたアナログな感覚が浮遊しているのである。まるでシーケンサーを使っているような単調なフレーズの繰り返しを普通の演奏で作り出し、そのフレーズを巧みに重ねてたり、編集している。もちろん、当時の機材の能力による限界が逆にこのサウンドを生みだしたのだとも言えるが、適度なスピード感と明快なメロディーがこの作品の魅力になっている。何時聴いても心地よい空間が現れる作品である。

評価:A(名盤といえる傑作品)
( Hideyuki Oba.2004.11.9)
Manuel Gottsching/electric guitar

[HOME][MonthlyKEPY][LIVE][DISK][Comments][Backnumber][Ash Ra Tempel]