美狂乱/美狂乱

Bikyoran/Bikyoran

1.二重人格 2.シンシア 3.狂パート2 4.ひとりごと 5.警告


1981年作

俗に日本のプログレシブ・ロックをジャップス・プログレなどと呼ぶが、なんでもかんでも日本産のプログレシブ・ロックならジャップス・プログレと呼んでしまおうというのには私は賛成できない。「プログレシブ・ロックとはなんだろう? part-7」で少し書いているが、私の考えるジャップス・プログレとはある限られた日本のプログレシブ・ロックのムーブメントのことであり、現在のビジュアル系ロックの原型となる派手なメイクにロング・ヘア、中性的な衣装、グラム・ロックやハード・ロックの延長線上にあるプログレ・ハードなサウンドなど、ある特徴的な要素を持っている音楽のことなのだ。その中心的グループが”ノヴェラ”である。1970年代後半から1980年代前半にインディーズ的な活動の中から様々なアーティストたちが音楽を創造していたのだ。

美狂乱はそんな時代に活動し、キング・レコードのネクサス・レーベルの第一弾シリーズで、ファースト・アルバム「美狂乱」を世に送り出した。同時にノヴェラ、アイン・ソフがこのネクサスからデビュー。それぞれ全く違う個性の、全く違う特徴をもったグループがこのネクサス・レーベルから誕生した。美狂乱はジャップス・プログレの中心的グループ、ノヴェラと同じレーベルからデビューしたことで、同じようなジャップス・プログレ音楽としてとらえられても仕方がないのかもしれない。しかし、美狂乱は私の考えるジャップス・プログレのどの要素にも当てはまらないグループなのだ。メイクや衣装でルックスを強調したり、派手なアクションでステージを演出したり、女の子からキャーキャー言われたりすることはとは無縁のグループ。彼らの音楽の原点であるキング・クリムゾンのようにクールでストイックで音楽だけで勝負する奴らなのだ。

日本のロバート・フリップ、須磨邦雄。ギタリストでありリーダーである彼を抜きにして美狂乱を語ることは出来ない。美狂乱はギター・ワーク、音色やフレーズ、音作りからサウンドの考え方すべてにおいて、ロバート・フリップ&キング・クリムゾンから大きな影響を受けながらも、須磨邦雄の独自のオリジナルな音楽世界を確立した日本のプログレ・シーンの中で忘れることが出来ないグループなのである。特にこのデビュー・アルバムはクリムゾンの第3期「太陽と戦慄」「スターレス&バイブル・ブラック」「レッド」が持っているストイックでありながらも破壊的なエネルギーを兼ね備えた、ク−ルな顔をしつつも時には凶暴なる牙をむく音楽なのである。静と動が混在し、共存する、ジキルとハイドのように。

1曲目から「1.二重人格」「2.シンシア」「3.狂 パート2」「4.ひとりごと」「5.警告」まで、どの曲も無駄がなく、一曲たりとも気が抜けるところがない緻密な構成になっている。ギターだけではなく、須磨邦雄のなんとも弱々しく切ないボーカルも美狂乱の個性のひとつである。当時、私はKEPYの細矢からこのグループの存在を教えられ、彼からレコードを借りてテープに録音した。おそらく、KEPY会長の向山も中澤もおなじだろう。始めてレコードに針を落とした瞬間から、私は美狂乱の世界に引き込まれ、最後まで行ってしまったのだ。とにかく強烈で感動的。この日本にこんな音楽を作れる人たちがいるということに驚き、感動し、元気づけられ、とにかくうれしくて、聴きまくるしかなかった。あれから20年経った今でも、このデビュー・アルバムはその輝きを失うことなく堂々と私の中で君臨し続けている。日本のプログレシブ・ロックシーンの中で様々な名盤、名曲が誕生したと思うけれど、この「美狂乱」はその中で最も重要な作品のひとつであると断言する。もし、この作品を聴いていないプログレ・ファンがいるのなら、必ずこの美狂乱のファースト・アルバムを購入することをお薦めする。

プロデュース/チト河内

評価:超A(滅多に出ない超傑作品)
( Hideyuki Oba.2000.10.19)

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