パララックス/美狂乱
Parallax/Bikyoran
1.サイレント・ランニング 2.予言 3.組曲「乱」a)プロローグ:歪みすぎた空 b)ストレンジ博士のクラクション c)パララックス・カンパニー d)グレイト・パララックス e)エピローグ:真紅の子供たち
1983年作
このアルバムが発売された当時、私は大学生であった。まだその頃は日本のプログレシブ・ロックはいろいろなグループ、アーティストが存在し、それなりの活躍をしていた。美狂乱はその日本のプログレ・シーンの中でも、人気、実力とも頭をひとつ抜け出した存在のグループであった。だから、この時の美狂乱は現役バリバリの存在であるし、このニューアルバムはプログレファンの注目を集めるには十分のものだったと想像できる。このような当時の状況を認識した上で、この作品の話を進めたいと思う。
1983年当時、このアルバムを買ったのはKEPYの細矢であった。当然のことながら貧乏な学生はそのレコードを借りて、テープに録音することになる。(須磨さん、ごめんなさい、貧乏臭い話で・・・)私はそのレコードをテープに録音した時のことを今でも覚えているが、この「パララックス」という作品にとてもがっかりしたのだ。要するにあまり感動しなかったし、面白くなかった。つまり、裏を返せば、すごく期待の度合いは高かったのだ。きっと、その期待にサウンドが答えてくれていなかったのだと思う。その後、ほとんどこの作品を聴くことはなく10年以上の歳月が過ぎた。
それもそのはず、これは1994年に発売されたマーキームーン社刊の「ジャップス・プログレシヴ・ロック」を読んで知ったことなのだが、実は美狂乱はこのアルバムを発表後、予定されていたいくつかのライブをキャンセルし、グループの活動を停止させてしまっていたのだ。アルバム「美狂乱/美狂乱」で強烈なインパクトを我々に与えたまま、美狂乱は姿を消してしまったのだ。世の中から美狂乱の情報が消えてしまった。だから、私も自然に美狂乱の話をすることもなくなってしまったのだろう。ある時、おそらく1993年頃だと思うが、たまたま新宿ディスクユニオンでいろいろ探していたら、この「パララックス」がCD化されて店頭に並んでいた。あっ、美狂乱のセカンド・アルバムだ、懐かしいなぁ、もう一回聴いてみようかな。そんな感じで、このアルバムを購入したのだ。
このアルバムはきちんと向き合って聴き込んでゆくと、楽しめることはとても多い。アルバム全体に緻密で繊細な、丁寧な音づくりがなされている。一曲めの「サイレント・ランニング」などはリフやメロディーもシンプルでかっこいいメジャー感のある作品である。ライブでも演奏される名曲だ。二曲目の「予言」はクリムゾンのダークなニュアンスを継承した美狂乱ならではのサウンドだし、組曲「乱」はカオス、混沌という状態を美狂乱ならではのサウンドでデザインした不思議な音空間を体験させてくれる。美狂乱のファンが好意をもって聴けばとても楽しめるものだろうと思う。しかも、ゲストの顔ぶれを見て下さい。今となれば誰もが知るところの大御所がズラリです。
しかし、普通の状態で何気なく聴いた場合は、そのサウンドのインパクト、ぐいぐいと心を引き込む力強さは弱いのではないだろうか。ふと気付くと、知らぬ間に終わっていたりするのだ。ファースト・アルバムの衝撃と比較すればするほど、私にとっては弱い感じの印象しか残らない。それも好き嫌いといえばそれまでなのかもしれないが、きれいにまとまりすぎているような気がする。須磨さんはこの作品を制作している時、本当にこころから楽しめたのだろうか。それからこのアルバムを発表後、美狂乱は活動を停止するのだが、それとこのアルバムの内容との関連はあるのだろうか。その辺の所を本人に聞いてみたいものだ。
須磨邦雄:ギター、ヴォイス
白鳥正英:ベース
長沢正昭:ドラムス
ゲスト
中西俊博:ヴァイオリン
溝口肇:チェロ
永川敏郎:キーボード
岡野等:トランペット
評価:C(楽しめる良作品)
( Hideyuki Oba.2000.12.15)
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