幻想飛行/ボストン
Boston/ Boston

side-A
1.
More than a feeling(宇宙の彼方へ)
2.peace of mind
3.forplay/Long time
sideB
1.Rock&Roll band
2.Smokin`
3.Hitch a ride
4.Something about you
5.Let me take you home tonight

1976年作

 ボストンはプログレなのか?以前、ダーリンちゃんもこのことについて書いているが、2002年の現在、アメリカに多くのプログレシブ・ロックのバンドが存在し、今や毎年恒例のお祭りイベントになったプログレ・フェストがアメリカの地で行われている状況を見ると、アメリカにプログレシブ・ロックが堂々と存在していることに疑問の余地はない。しかし、プログレシブ・ロックがイギリスで誕生し、ヨーロッパ諸国で更なる発展を遂げるというプログレのメインストリームから見ると、アメリカのプログレシブ・ロックは独特でしかも特殊な成り立ちで形成されていると私は考えている。つまり、ほとんどのプログレシブ・ロックのバンドはキング・クリムゾンに代表されるプログレ4大バンドKEPYやカンタベリー・ロックの流れを受けるイギリスの音楽を幹にして枝葉に分かれていった結果、花が咲き果実となった音楽であるのに対して、アメリカのプログレと呼ばれる音楽はまさにアメリカの大地からそのまま生えてきた独自の花を咲かせたサウンドなのである。スポックス・ビアードに代表される現在活躍するアメリカのプログレ・シーンへとつながる原点となるバンド、それがボストンなのだ。
 
 1976年に発売されたファースト・アルバム「幻想飛行」は当時の中学生の男の子達の間でも評判になっていた。当時、中学生だった私の愛聴していたNHK-FMのヤング・ジョッキーという番組でDJの渋谷陽一が真っ先にこのボストンを紹介していた。渋谷陽一はこのアメリカからの全く新しい今まで聴いたことのないサウンドのことを「アメリカン・ハード・プログレ」と呼んでいた。この時期、まだプログレシブ・ロックは生きていた。クリムゾンは解散していたものの、ピンク・フロイド、イエス、E.L.Pはニュー・アルバムを発表し、現役で活動していたのだ。渋谷陽一はイギリスを中心とするヨーロッパの本家プログレシブ・ロックに対して、アメリカから生まれた文字通りの前進・進歩するロックをアメリカン・ハード・プログレと呼んだのである。今までの音楽の枠にはまらない、自由でドキドキする彼らのオリジナリティーに多くのロック・ファンが大拍手を送った。

 ボストンは東海岸の工業都市ボストンから誕生したのは当たり前なのだが、彼らのサウンドには西海岸のアメリカン・サウンド、イーグルスやドゥービー・ブラザーズが持つアメリカ独自のグルーヴ感が底辺に存在している。アメリカらしい太陽の光を感じさせる乾いたまぶしいサウンド、スピード感溢れるボーカル&コーラス、広大なアメリカの大地に一本の真っ直ぐな道があり、そこをハーレイ・ダビッドソンの大型バイクで突っ走るようなサウンド・イメージがある。そこにアルバム・ジャケットに描かれているように巨大な飛行船で宇宙を駆け抜けるようなスペイシーなサウンド空間が展開されるのだ。中でもバンド・リーダーのトム・シュルツが作り出したギター・サウンドはボストン・サウンドの要であり、ゴージャスで密度の濃いエレクトリック・サウンドは非常に斬新でオリジナリティの高いものである。さらに適所で姿を現すハモンド・オルガンがスペース感を増幅させる。また、ゴージャスなエレクトリック・サウンドの対比として繊細なアコースティク・ギターが絶妙なタイミングで絶妙な場所で鳴り響き、聴き手の心の琴線に触れてくる。そして、肝心要の楽曲が最高にカッコいいのである。メロディーがとにかく印象的で覚えやすく、もちろん泣きまくるギター・ソロもたまらない。

 ボストンはプログレなのか?私がこの問いに答えるとしたら現在オタク音楽として堂々と存在するイギリスを原点に作られてきたプログレシブ・ロックの枠の中にはボストンは入ってこないと思う。ボストンはクリムゾンやピンク・フロイドからほとんど影響を受けていないし、彼らの中に組曲やコンセプトアルバムといった概念もないだろう。彼らはクリムゾンなど全く眼中になく、イーグルスやドゥービー・ブラザーズが大好きなのであり、アメリカの音楽シーンの中で今までにない革新的な音楽を作ろうとしただけなのだと思う。その結果、非常に独自なボストン・サウンドが出来上がったのだ。その意味ではまさに様式美などにとらわれない、本当の意味のプログレシブ・ロック、前進・進歩するロックを独自の視点で完成させた偉大なバンドなのである。本来ならこういう音楽姿勢のバンドこそ真のプログレシブ・ロック・バンドと呼ぶにふさわしいのではないだろうか。

トム・シュルツ:ギター&キーボード
ブラッド・デルプ:ボーカル&ギター
バリー・ゴウドリュー:ギター
フラン・シーハン:ベース
シブ・ハッシャン:ドラムス&パーカッション
評価:超A(滅多に出ない超傑作品)
( 大庭英亨 2002.6.14)

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