暗黒への曳航/カンサス
Point 0f know return/ Kansas

side-A
1. Point of Know Return
2. Paradox
3. The Spider
4. Portrait (He Knew)
5. Closet Chronicles
side-B
1. Lightning's Hand
2. Dust in the Wind
3. Sparks of the Tempest
4. Nobody's Home
5. Hopelessly Human

1977年作

 アメリカのプログレシブ・ロックということになれば、どうしてもボストンとカンサスを比較して語りたくなってしまうが、カンサスは1973年にデビュー・アルバムを出し、ボストン(1976年にデビュー)より一足早く、プログレ・ハードなアメリカン・サウンドを生み出した。両バンドともアメリカン・プログレハード、及びアメリカン・ハード・プログレなどと評されるが、明らかに違うところはボストンは変拍子を使わないが、カンサスは変拍子を多用するところにある。正確にはボストンは変拍子もあるがプログレ的な典型的変拍子はないのである。また、ボストンはイギリスやヨーロッパのプログレバンドの影響を全く受けていないが、カンサスはやはりどこかでクリムゾンやイエスの影響があるように推測される部分がある。変拍子とバイオリンの編成を見ると、クリムゾンの流れがどこかに隠されているように感じるのである。ただし、ダークでクラシカルな部分のあるクリムゾンのバイオリンとは対称的にカンサスはどこまでもカントリー的でありアメリカンな感性が存在しているところは明らかに異なっている。

 世の中では1976年にボストンが「幻想飛行」で華々しくデビューしセカンド・アルバム「ドント・ルック・バック」を立て続けに発表していた。カンサスも前作「永遠の序曲」に続き、今作「暗黒への曳航」を発表し、お互いに華々しく活動を展開させていた。この時期、カンサスとボストンを比較してしまうのは自然の成り行きであった。多くのロック・ファンがこの2つのバンドを聴き比べていたのである。商業上の競争でもボストンもかなりの売り上げを伸ばしていたが、カンサスのこの作品も全世界で700万枚以上を売り上げた大ヒット作品となっている。特にシングル・カットされた「すべては風の中に Dust in the wind」はプログレシブ・ロックの枠を大きく越えて、世界的なヒット・ソングとなり、20世紀を代表するバラード・ソングとなった。日本でもテレビCMソングに起用されたり、多くの人々に愛された。

 前作「永遠の序曲」より、さらにコンパクトでポップでコマーシャルな曲でアルバム全体が構成されている。とはいうものの、変拍子が非常に切れ味よく、時代にふさわしいプログレ・サウンドを聴かせてくれたということではないだろうか。アルバム全体のまとまりも前作同様に素晴らしく、心地よい。ただし、10分を超えるようなドラマチックに展開するプログレ・ハードなサウンドが陰を潜めてしまったことはディープなプログレ・ファンには少々不満が残るかも知れない。

Kerry Livgren - Synthesizer, Guitar (Acoustic), Guitar, Percussion, Piano, Guitar (Electric), Keyboards, Clavinet, Whistle (Instrument)
Steve Walsh - Organ, Synthesizer, Percussion, Piano, Celeste, Keyboards, Vocals, Vibraphone, Chromatic Inventer
Phil Ehart - Percussion, Chimes, Drums, Gong, Tympani
Dave Hope - Bass
Robbie Steinhardt - Violin, Cello, Viola, Vocals, Lap Cello
Rich Williams - Guitar
Rick Williams - Pedals
評価:B+α(手応えのある快作品)
( 大庭英亨 2002.9.8)

 このアルバムはもっともカンサスらしいアルバムと言うことができます。最も売れたとも言い換えられますが、前作同様捨て曲が全くありません。前作「レフトオーバチュア」との比較で考えると、本作は前作程ギターが前面に出きていない反面キーボード・バイオリンの比重が高くなり、アレンジ的に全体的なまとまり度が向上しています(今までの曲は作曲者により曲調が明確に別れていましたが、本作は共作が多いためかかなり融合した感じです)。カンサスの全作品中もっともシンフォニックで静的な美しさも感じさせる最高傑作と言うことができるでしょう。曲の配置も基本線は一緒で、1曲目に最もキャッチーなナンバー「ポイント・オブ・ノウ・リターン」がきて最後にシンフォニックな「ホープレスリー・ヒューマン」を持ってきています。また3曲目「スパイダー」はハモンド中心のキーボードインストウルメント、7曲目は生ギター&バイオリンのアコースティクナンバーと新しい試みもみられます(この曲は全米シングルチャート6位になりました)。
評価:A(名盤と呼べる傑作品)
(ダーリンちゃん2002.9.8)

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