モボ/渡辺香津美

Mobo/Kazumi Watanabe

side-A1.Shang-Hi(Mobo#1) 2.Yatokesa(Mobo#3) 3.Alicia
side-B1.American Short Hair 2.Mobo#2
side-C1.Voyage 2.Half Blood 3.Yenshu Tsubame Gaeshi
side-D1.Walk,Don't Run 2.All Beet Are Coming(Mobo#5)


1983年作

 遊びとか、無駄とか、余分な贅肉とか、隙間とか、装飾とか、音楽の骨格以外の要素をすべてそぎ落とし、必要最小限のパーツで作る音楽。最小限の音楽、ミニマル・ミュージックはあるフレーズを繰り返すことで、サウンド要素を最小限にする音楽を成立させた。この「モボ」で聴けるサウンドはそのミニマル・ミュージックの考え方であるフレーズの繰り返しは行っていないものの、とにかくシンプルで無駄や遊びのない計算しつくされた世界である。例えば、あるひとりの芸術家が自分の作品テーマを究極まで突き詰めてゆくうちに、余分で不必要な要素を捨ててゆく、そして、最後まで残ったものだけでカタチにし作品とする。そうしてできあがった作品がこの「モボ」ではないだろうか。だから、とにかくクールである。そして、ストイックでもある。それでいながら、非常に攻撃的で、シャープである。サウンドの輪郭がとにかく硬くて鋭くて、手で触ると切れてしまいそうなほどである。

 渡辺香津美はマライア・プロジェクトとしてのカズミ・バンドでふたつの作品を完成させ世に送り出している。なかでも「ガネシア」で行った従来のジャズやロックの枠組みを越えた新しい音楽への挑戦を経たことによって、彼の中に新しい自分の音楽へのビジョンが生まれたのではないだろうか。ある意味で観客のことを考えず、究極の音楽の追究を実践しているような姿を感じ取ることができる。多くのファンに気に入ってもらうことよりも、本当に良い音楽を理解してくれるファンだけに分かってもらえばいい。音楽家としてターゲットを絞った作品作りをしてきたのではいかと思う。当時、私が愛読していた音楽雑誌「Jazz Life」でも大々的に取り上げられ、絶賛されていたのを記憶している。とは言うものの、私個人的に言えばこの作品をすんなりと手放しで楽しんだわけではなかった。私には少しハイブロウ過ぎたのだ。作品が高度すぎたのだ。当時はこの良さがわからなかったなあ。やっぱり、子供の聴く音楽じゃないと言うことだね。でも、今はばっちり楽しんでいますよ。

 今だから分かることだが、「モボ」はカズミ・バンドで清水靖晃らマライアのメンバーたちとの音楽活動を経なければ生まれなかった作品である。カズミ・バンドの延長線上にこの「モボ」は乗っかっていると私は思う。メンバーが違っているだけだ。渡辺香津美はメンバーを根底から変えて、カズミ・バンドの音楽を発展させたのだ。マーカス・ミラー&オマー・ハキム、ロビー・シェイクスピア&スライ・ダンバーというふたつのスーパー・リズム隊をはべらせながら、理想のサウンドを思う存分に追求したのだろう。彼はいつでも自分を中心に最高のミュージシャンを仲間にして、最高の音楽を作ろうとする。この「モボ」は相当高いレベルまで来てしまったように思う。はっきいって、解らない人は解らないので、そのつもりで。そのかわり、はまったら大変なことになる超名盤なのだ。


KAZUMI WATANABE : guitar
ROBBIE SHAKESPERE : bass
MARCUS MILLER : bass
SLY DUNBA : drums
OMAR HAKIM : drums
STEVE JORDAN : drums
KEI AKAGI : piano&fake marimba
DON GROLNICK : organ&synthesizer
MICHAEL BRECKER : tenor sax

評価:A(名盤と呼べる傑作品)

( Hideyuki Oba.2001.6.5)

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