10年ほど前、「プログレシブロック-原型回帰」というシリーズ企画があり、その中の一枚にこのマンダラバンドのデビュー・アルバムがあった。チベット語による話題の大作「曼陀羅組曲」を収録した歴史的プログレ名盤、というたかみひろし氏の書いたコピーがCDの帯に書かれていた。このアルバムは1975年にイギリスで発売されたモノで、当時のメロディー・メーカー誌の記事によると「日本でのみ売れた(成功した)マンダラバンド」という表現がされている。そういえばあのU.Kも日本で成功したイギリスのプログレ・バンドとして有名である。日本にはプログレシブ・ロックを受容する独特の感性が存在するようである。
ライナーノーツによると、この作品はまず楽曲「曼陀羅組曲」が先にできあがり、その楽曲を完成させ、世に送り出すためにデイブ・ロール(ソングライター&キーボード)とトニー・クレスウエル(ドラム)がメンバーを集め、デモテープを作り、レコード会社と契約して本当にデビューすることになったそうである。マンダラバンドのメンバーは以前にどこかの有名なバンドで活躍したという実績はないものの、スタジオ・ミュージシャンとして素晴らしいテクニックを持った強者ぞろいである。演奏は非常に素晴らしい。
さて、作品の中味に話を移そう。先にも触れたが、まず初めに楽曲ができた。その楽曲「曼陀羅組曲」にはとにかく心を揺さぶるメロディーがぎっしりと詰まっている。起承転結という物語展開に加え、壮大でシンフォニカル、ポジティブでありながらも柔らかさを兼ね備えた、プログレの王道をゆくドラマティックなサウンド・ワールドが文句なしの完成度で聴き手に迫ってくる。マンダラバンドはブリティシュ・バンドであるが、イギリス特有の音楽の枠を超え、ユーロピアンのたとえばイタリアのバンドが持っているどこかに必ず光を感じさせるサウンドと微妙に泥臭い情熱を混入した世界観がある。イギリスのバンドを引き合いに出すならばムーディー・ブルースの淡い光と柔らかなボーカル、叙情的なメロディー・ラインと通底する所があるように感じられる。また、叙情派プログレということでいえば、キャメルやセバスチャン・ハーディーのニュアンスもある。このように書くと何だか優しい印象のサウンドであるように受け取られるかもしれないが、マンダラバンドは変拍子のオンパレードで非常に攻撃性のある側面がバランス良く組み込まれていることを付け加えたい。
曼陀羅組曲の後には小作品が4曲並ぶが、これもそれぞれが素晴らしいもので捨て曲が一切なし。プログレってやっぱいいなぁ、と素直に思えるアルバムである。心の琴線に触れるサウンドがここにはある。美しいメロディーを聴くと自然に涙がでてくるものなんだなぁ。