アウシュビッツ・ドリーム/マライア

Auschwiz Dream/MARIAH

1.The Introduction 2.Auschwiz Dream 3.The sun Is Shining Through 4.Lost Children-失われた子供達 5.Far From The Orient-はるかなる東から 6.The Boys Of Century`s End-世紀末少年隊 7.Pushy Brat 8.Estancia Lover


1981年作

 突然変異。日本の音楽シーンにおいて、マライアはある意味ではそんな存在であったのかも知れない。海外のアーティストの作品を模倣することから始まった日本のポピュラー・ミュージックの世界で、彼らの音楽そしてその存在は他の誰とも交わることなく、ぽつんと孤立しているようにも見えた。どこか宇宙の惑星から日本という国にやって来た超能力音楽集団。彼らが作り出したサウンドのニュアンスそして肌触りは違和感や拒絶反応をも伴いながら、日本の音楽シーンの中を駆け抜けていった。解る人には解る、解らない人には解らない。聴き手に媚びることなく、自分たちの表現したい音楽世界を堂々と作り続けた。オリジナルであること。他の誰もが創りだせない世界。それは突然変異としか言いようのない存在であった。

 壮大なスケール感のコーラスで始まるイントロダクション、そこにナチスドイツの党首アドルフ・ヒットラーの演説と戦闘機の爆音が重なってくる。「アウシュビッツ・ドリーム」。大体にこんなテーマを選んで音楽にしてくるところが、まず一般常識では考えられない。人間の隠された部分、こころの奥に潜んでいる闇。普段の生活の中で、あまり入り込まない領域にあえて踏み込んみ、表現としてカタチにする。しかも、インディーズの世界でなく、メジャー・レコード会社から堂々と出してしまうこと自体が凄い。そして、メロディーのセンスには脱帽するしかない。宗教音楽から、クラシックとくにバロック音楽から、ポピュラーな童謡から、エスニックな民族音楽からヒントを獲ながら、非常に巧みな感性で作り上げて行く。どんなにキャッチーで覚えやすいメロディーであっても、必ずどこかに毒が隠されている。不協和音を効果的に使いながら、聴き手の心を引き付け、そして裏切るのである。

 このアルバムはラスト曲「エスタンシア・ラバー」の終わった後、次のような詩で締めくくられている。村川ジミ−聡が戦闘の爆撃音の中で穏やかに朗読している。

僕は夢を見た。

それは天使たちが止まる林檎の樹がある島に行った夢だった。

僕はその樹を見上げて思った。

本当の伝道師たちは何処に行ったのだろう。

長い時間天使たちの帰りを待った。

林檎が腐って落ちた。

ふと気がつくと、樹には悪魔たちが止まっていた。



サウンド・プロデュース:マライア

土方隆行:ギター、ボ−カル
笹路政徳:キーボード
清水靖晃:テナー&アルト・サックス
村川ジミ−聡:ボ−カル
渡辺モリオ:ベース
山木秀夫:ドラムス
イヴ:コーラス
マライア・スーパー・ホーンセクション
多 ストリングス・セクション

評価:A(名盤と呼べる傑作品)

( Hideyuki Oba.2001.4.2)

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