クリシュナ/村田有美

Krisina/Yumi Murata

side-A 1.Let It Blow 2.Red High-Heel 3.Morning Telephone 4.Midnight Communication 5.Mischief
side-B 1.Glenn Miller medley 2.The Krishna 3.Machikado-De 4.Love Survival


1980年作

 とにかく多彩な作品である。クラシックあり、ロックあり、ジャズあり、ファンクあり、フュージョンあり、歌謡曲あり、フォークあり。様々な音楽の側面を持ちながら、この1980年という時代の空気を取り込んだ日本のポップス。女の子の日常のつぶやきや恋愛をチャーミングに歌ったかと思えば、人生という大きなテーマを壮大にドラマチックに表現したり、音楽というものを柔軟にとらえながら、その可能性を探る実験を行なっているような姿勢がある。この実験精神はこの村田有美のアルバムだけでなく、マライア・プロジェクトの全ての作品と活動に対して言えることである。この音楽に対する姿勢こそが進歩・前進するプログレシブ・ロックの基本なのだ。

 村田有美は笹路政徳の「ホット・テイスト・ジャム」や土方隆行の「スマッシュ・ザ・グラス」でも堂々とメイン・ボーカルを務めていて、すっかりマライア・プロジェクトの一員として定着している訳であるが、ここではソロ名義ということもあり、彼女の今までになかった側面も含め、ボーカルとしての幅の広さが表現されている。ハードでソリッドなサウンドに彼女のボーカルがシャウトするファンキーな世界、ソフトなハスキー・ボイスでささやくように歌うしっとりした世界、クリアで透明感のある伸びやかなトーンで歌う広がりのある世界。当時の日本ではまだブラック・ミュージックとしてのソウルを本格的に歌える歌手は大橋純子くらいしかいなかった。そんな時代に出てきたのがこの村田有美であり吉田美奈子であったのだ。村田有美はこの作品の前にデビュー・アルバムを出しているが不満だった。ロックやディスコ・サウンドのフィーリングを取り入れたポップスが全盛だった日本の音楽シーンの中で、チャカ・カーンなどに通じる彼女のファンキーなボーカル・スタイルはあまりにも本格的すぎた。自分の思い描く音楽が表現できないことに不満を感じていた時、彼女はマライアに出会ったのだ。そして、御存じの通りマライア・プロジェクトに参加することになり、活躍する場を得ることになった訳である。また、マライアにとっても彼女の存在は大きなものであった。マライア自身、主要メンバーの他にこの村田有美、吉田美奈子、渡辺香津美、亜蘭智子など、その時代の音楽の感性に優れた人々と手を組みながら、そのサウンド・ワールドを広げて行ったのだ。

 大胆なストリングス、迫力のホーンセクション、緻密で壮大なコーラスなど、今までの日本の音楽にはなかった新しい音づくりの基礎実験がこの作品で行なわれた。ここでの試みは次のマライア・プロジェクトの仕事、マライアとしてのファースト・アルバム「エン・トリックス」で大きく開花する。22、23歳という日本の若者たちが日本のミュージック・シーンに革命を起こそうとしている瞬間である。


サウンド・プロデュース:清水靖晃
共同サウンド・プロデュース:笹路政徳

村田有美:ボーカル、コーラス< BR> 土方隆行:ギター、コーラス
笹路政徳:キーボード
清水靖晃:サックス
村川ジミ−聡:コーラス
富倉靖雄:ベース
渡嘉敷祐一:ドラムス
マライア・スーパー・ホーンセクション
多 ストリングス・セクション

評価:B(手応えのある快作品)

( Hideyuki Oba.2001.3.24)

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