スマッシュ・ザ・グラス/土方隆行

Smash The Glass/Takayuki Hijikata

Logic-A 1.Smash The Glass 2.A Ryhme for Illusion 3.Serious More Serious
Logic-B 1.The Other Side Of Logic 2.Let Your Love Glow 3.Dance This Night Away 4.Finds The Stars In Your Eyes 5.A Farewell


1980年作

          
遥か彼方から、かすかに聴こえてくるリズムギター。

ゆっくりと少しづつ近づいてくる。

そして、耳もとで誰かが”Smash The Glass”とささやく。

「ガシャ〜ン」

砕け散るグラスの音を合図に総ての楽器たちが一斉に走り出す。


 もう、ここで完全に鳥肌である。リズムギターのカッティングがこんなにもかっこいいなんて、知らなかった。このタイトル曲「スマッシュ・ザ・グラス」を形容するなら、ファンキーという言葉を最上級の褒め言葉として使いたい。2001年の今でこそ、日本でもブラック・ミュージックをベースにした素晴らしいサウンドを生み出すアーティストがヒットチャートをにぎわせているが、この1980年にここまで洗練させたファンキーなブラック・サウンドを作りだしていることに驚きを隠すことはできない。グルーヴという言葉も簡単に使われるけれど、ここで聴けるグルーヴ感は当時としては驚異的にカッコよかった。村田有美の歌声も低くハスキーで、このグルーヴ感に華を添えている。歌の上手さは現在の”UA”や”ミーシャ”もかなりのものであるが、彼女の歌声の存在感、個性は今聴いても十分に輝いている。マライア・スーパー・ホーンセクションが奏でるブラス楽器の分厚いサウンドが聴き手の身体を震わせる。このサウンドはカラダの奥にズシリと響くボディー・ソニック・ミュージックなのだ。2曲目の「A Ryhme for Illusion」ではガラリと趣を変えて、土方隆行のギターがバロック音楽的な旋律を響かせる。8回のオーバーダビングによる重ね録りで、サウンドに奥行き感を演出している。さらに村川さとしのボーカルが幻想的な音空間を作り出すのに一役かっている。クラシカルなヨーロッパテイストとファンキーなブラック・ミュージックが絶妙にブレンドされた不思議なサウンドである。

 レコードを裏返すと、マライア・プロジェクトならではの特徴的なサウンドが聴ける「The Other Side Of Logic」が始まる。清水靖晃の攻撃的な旋律を奏でるテナー・サックスを中心にし、ギター、ドラムス、キーボードが一気にからみ合いながら、天空に向かって駆け上がって行くイメージ。このサウンドのニュアンスはカズミバンドやマライア本体のアルバムでも随所で聴くことができる。プレイヤー個人個人の演奏能力の高さなくしては成り立たないインプロビゼーション的なサウンドである。続いて、村川さとしボーカルの「Let Your Love Glow」、村田有美ボーカルの「Dance This Night Away」、村川さとしボーカルの「Finds The Stars In Your Eyes」とコンパクトな歌ものの楽曲が心地よく流れてゆく。ギタリスト土方隆行のソロ名義のアルバムであるが複数のメイン・ボーカリストを起用しながらクールでシリアスそしてファンキーさを兼ね備えた何とも言葉では言い表せない世界を創り出している。そして、ラスト・ソング「A Farewell」を迎えるのである。3分40秒という短い時間であるが、”人生の別れ”の切なさ、避けることができない運命的な出来事としての悲しみが見事なまでに表現されている。

 当時この作品を聴いて、まず感じたのは本当にこれは日本人が創ったものなのだろうかということだった。ある意味ではどこの地域にも属さない無国籍的なサウンドの広がりがこの中にあったのだと思う。ロックでありジャズ・フュージョンでありクロスオーバーでありゴスペルでありブラック・ソウルでありバロックであり賛美歌でありエスニックであり、そしてそのどれでもない音楽がここにあった。いくら言葉を重ねても説明できない音楽。今までこの世の中に類型のない音楽。聴いたことがありそうで、全くなかった音楽。ポップスでありながら、アバンギャルドで不協和音を使いながら調和を創っている。相反する要素を持ちながら、ひとつにまとめあがっている。ギタリストのソロ・アルバムでありながら、ギターがメインになっていない。今までの常識では語ることができない様々な事柄が混沌としながらひとつの枠の中で踊っている。とにかく何回聴いたかわからない。私がマライア・プロジェクトの音に初めて出会った作品。あまりにも凄い作品なので上手く文章で表現できない。申し訳ない。

サウンド・プロデュース:清水靖晃

土方隆行:ギター、ボ−カル
笹路政徳:キーボード
清水靖晃:テナー&アルト・サックス
村川さとし:ボ−カル
渡辺モリオ:ベース
冨倉靖雄:ベース
渡嘉敷祐一:ドラムス
村田有美:コーラス、ボーカル
織田哲朗:コーラス、ボ−カル
マライア・スーパー・ホーンセクション

評価:超A(滅多に出ない超傑作品)

( Hideyuki Oba.2001.3.24)

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