ブルジョワジーの秘かな愉しみ/難波弘之
Le charme discret de la bourgeoisie/Hiroyuki Namba

1.シャコンヌ
2.ブルジョワジーの秘かな愉しみ
3.夢せぬ夢を
4.アラベスク第二番
5.時計の匂い
6.アルマンドとメヌエット(フランス組曲第三番)
7.オペラの怪人
8.スピーチレス〜ロミオとジュリエット
9.月下の舞踏

1985年作

 山下達郎のサポートから離れ、3枚目のソロ・アルバムとなるこの作品は前作までの2面性(作品の中に難波弘之式ディープ・プログレシブ・サウンドとジャパニーズ・ポップス・サウンドがはっきりと分かれて同居していること)がはっきり分離した構成ではなく、トータルな世界観の中にその基本精神が宿るような曲作りがなされている。つまり、インストゥルメンタル曲はプログレシブ・ロックでボーカル曲はジャパニーズ・ポップスであるというような分離した作り方はなくなっている。インストゥルメンタル曲もポップさを含みながら変拍子のプログレシブ・サウンドに仕上げられ、ボーカル曲もただのポップスではなく、変拍子やプログレならではの陰鬱な空気間を漂わせた曲として作られているのである。その説明の良い例として、3曲目の「夢せぬ夢を」はU.Kの名曲「ランデブー6:02」をカバーした作品で日本語の歌詞が付けられている。つまり、プログレシブ・ロックの王道でありながら、そこにポップさを兼ね備えたプログレ・サウンド、つまり、それはあのイギリスのスーパー・グループ、U.Kの音作りのコンセプトに非常に近いのである。

 とはいうものの、サウンドのニュアンス、肌触りはU.Kとは随分違うように私は思う。難波弘之はブリティッシュというよりも、ヨーロッパのプログレシブ・ロックが作ってきた独特のサウンド感覚を受け継いでいるように感じている。クラッシックをベースにジャズとロックを組み合わせたイタリアン・ロックなどの匂いがある。特にこの作品はクラシック曲をベースにしたプログレシブ・サウンドを随所で聴かせているし、彼の演奏するキーボード類の音自体がブリティシュというよりユーロピアンといった方が適切なような気がするのである。

 この作品は日本語を使いながら、ポップさを持ち、かつ変拍子のディープなプログレシブ・サウンドをクラシックやジャズ・フュージョンの要素を混ぜながら作り上げた音楽の新境地である。ある意味では違和感や無理解をリスナーに呼び起こすかも知れない。しかし、1985年というあの時代にプログレシブ・ロックにこだわり、そして新しい時代感覚を持ちながら、日本のメジャー・レーベルからこのような作品が発表されたこと自体が驚きであり、素晴らしい偉業だと思う。その作品価値は非常に高い。
難波弘之keybordsn :keybords
そうる透 :drums
小室和之 :bass
guest
池田DAMEO :synthesizer operate
神崎愛 :flute
小室和之 :chorus
渡辺香津美 :guitars
中西俊博 :violin
藤山明 :flute
         
評価:A(名盤と呼べる傑作品)
( 大庭英亨 2002.2.10)

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