パーティ・トゥナイト/難波弘之
Party tonight/Hiroyuki Namba

1.オーヴァーチュア
2.パーマー・エルドリッチの三つの聖痕
 パート1:Eyes
 パート2:Hands
 パート3:Teeth
3.夢中楼閣
4.パーティ・トゥナイト[地球を遠く離れて]
5.ロスト・ラヴ[雨の宇宙空港]
6.渇きの海
7.シルバーグレイの街

1981年作

 私が大学受験の浪人生活に別れを告げようとしていた1981年の春、浪人時代に苦楽を共にした私の音楽の師であり、同級生の菊池君から難波弘之の「パーティ・トゥナイト」を初めて聴かせてもらった。その頃の私はまだほとんど日本のプログレシブ・ロックについて知らなかった。ピンク・フロイドが好きで、クリムゾンが好きで、イエスが好きで、ELPが好きな普通の学生だった。この作品は一回聴いてすぐその音楽にのめり込んでしまうほど、インパクトがあり、大好きな音だった。どこかで聴いたことがありそうな完全なプログレシブ・ロックなのだが一体どこで聴いたのか説明できない音楽だった。クリムゾンじゃないし、イエスじゃないし、もちろんピンク・フロイドでもない。キーボードが中心のトリオということでELPのサウンドかなぁと思うものの、確信が持てない。でも、そこにあったのは正真正銘のプログレシブ・ロックだった。プログレシブ・ロックならではの変拍子とざらついた音空間を作り出すオルガン&シンセサイザー・サウンド。あたかも本場ヨーロッパで作られたようなサウンドの質感は私をぐいぐい引き込んでいった。難波弘之の作り出す音の肌触りは知的でクールなのだが、どこかいつもやわらかい。彼自身の好きなアーティストにプロコルハルムがいるが、名作「青い影」で聴けるオルガン・サウンドのやわらかさに似た質感が難波弘之の音にも感じられる。

 このアルバムは山下達郎のライブ&レコーディング・メンバーとして難波弘之が参加して間もない頃、日本のマーケットでプログレは無理だと思っていた難波弘之に山下達郎があえて”プログレで勝負てみたら”と強引にアドバイスした結果、生まれた作品である。正確に言えば「プログレとSF短編小説を合体させたアルバムを作ればいいのに」と提案したそうである。15歳の時に書いた小説「青銅色の死」で安倍能成文学賞をもらい、SF小説にも才能を発揮していた難波弘之の大好きなSF小説とプログレシブ・ロックがこの「パーティ・トゥナイト」になった。このアルバムにはサウンドの他に、書き下ろしの短編小説「パーティ・トゥナイト」というブックレットが付けられている。アルバムのサウンドのコンセプトがこの短編小説を読むとよく理解できる。しかし、私には小説よりサウンドの面白さだけで十分だった。インストゥルメンタルで完全な変拍子&シンフォニック・プログレサウンドと当時流行の大滝泳一、そして山下達郎に代表される日本製のポップなサウンドが上手に配置されたアルバム構成。プログレシブ・ロックという一方的な視点では語り尽くせない、非常に不思議な感覚を呼び起こされる作品である。
sese of wonder are
Tohru Tanabe :drums
Mott Tanabe :bass
Hiroyuki Namba :keybords
          
評価:A(名盤と呼べる傑作品)
( 大庭英亨 2002.2.10)

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