マザー・アース/プリズム

Mother Earth/PRISM

1.Awakenin`~I don`t go for that 2.Deja vu 3.Shade of the moon light 4.Flowing in the wind 5.The rains 6.in the streamline 7.Kiki(a flying girl) 8.Call out Mr,M.K 9.Mother earth


1990年

 1988年、プリズムは正式に3人のメンバーになり、キーボードのない非常にシンプルな構成で音楽活動を始める。(KEPYではここからのプリズムを第4期と考える。)そして、1990年、レコード会社をバンダイに移籍し、環境問題を音楽のテーマにして、新たな音楽制作に挑むことになる。振り返ると、プリズムは1983年にアルバム「永久機関」を発売後、音楽的に試行錯誤の時代が続いたように思う。和田アキラのソロ活動や第3期プリズムの活動を通してみると、自分たちが現在の音楽シーンの中で何処に立てば良いのか、その場所を探していたように感じる。日本のバブル経済の中で、音楽の流れが大きく変化、その変化のスピードも加速度を増していたように思う。時代の音楽と自分たちの音楽とのズレやギャップを肌で感じながら歩いてきたのかも知れない。とはいうものの、時代の風の中で、彼らはその時々で音楽を楽しんでいたように思う。その証拠にプリズムは空白時間を作ることなく、コンスタントにアルバムを発表し、ライブを続けてきた。そして、その結果、和田アキラ、渡辺健、木村万作の3人だけが残ったのである。ジェネシスの「そして3人が残った」とは少し事情が違うが、バンドとしての最小限のメンバーでプリズムは新しい挑戦を開始したのである。

 初期のプリズムはラテンのリズムで情熱的に展開する世界を特徴のひとつにしていた。リターン・トゥ・フォー・エヴァーなどのスパニッシュ・ジャズからの影響なのか、和田アキラの疾走するギター・ソロを中心にスピードのある先鋭的なフュージョンを創造していた。しかし、この第4期になると、もはやラテンという世界観はプリズムの中からほとんど消えてしまっている。コズミックでプログレシブな第2期プリズム後期のサウンドを通過して、彼らは南米からヨーロッパへと旅をしてきたのかもしれない。この作品で聴けるサウンドのひとつは「i.o.u」以降のアラン・ホールズワ−スの仕事にとても近い。ブリティッシュ・ジャズ・ロックを作ってきた重要人物のひとりをアラン・ホールズワ−スと考えるならば、プリズムはまさにジャズ・ロックの本道へと足を踏み入れたことになる。和田アキラはデビュー時からアラン・ホールズワ−スに影響を受けたギターをプレイしていたが、それはロックの分野で活動していた時期(1970年代の活動)のホールズワ−スのギターであった。ここではジャズ領域に入り込んだホールズワ−ス的なプレイを伸び伸びと展開させている。「Deja vu」「Shade of the moon light」などはホールズワ−スのアルバムに収録されていてもわからないくらいだ。また、シンタックスをプレイするホールズワ−ス同様に、和田アキラもギター・シンセを使っている。1980年以降、周りから何を言われようとも、かたくなに自分のスタイルを守り続け、高度なジャズ・ロックを追求し続けているホールズワースの音楽活動の姿勢にプリズムも少なからず影響を受けたのではないだろうか。個人的に、アラン・ホールズワースと和田アキラのギター・サウンドを比較して聴き込むようになったのはこの作品がきっかけである。

 そして、もうひとつは和田アキラのギターが歌う、キャッチーなメロディーが心地よいプリズムならではの音楽世界が相変わらずで存在している。プリズムの音楽はほとんどがインストゥルメンタルの曲である。しかし、そこではヴォ−カルの変わりに、和田アキラのギターが歌を歌っているのである。その音楽を支えるのはメロディーである。これは私の持論であるが、感動する音楽には必ずと言っていいほど、いいメロディーがあるのだ。「Mother earth」母なる地球、音楽のテーマもさることながら、非常に奥の深い作品である。じっくりと、腰を落ち着けて聴いてほしい。

和田アキラ:ギター
渡辺健:ベース
木村万作:ドラムス

評価:A(名盤と呼べる傑作品)

(Hideyuki Oba 2001.3.12)
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