プリズム/プリズム

PRISM/PRISM

side-A 1.Morning Light 2.Cycling 3.Dancing Moon 4.Love Me
side-B 1.Viking II 2.Tornado 3.PRISM


1977年

 私がプリズムのファースト・アルバムを聴いたのは、1980年のこと。大学受験に失敗して札幌の予備校で浪人生活を送っていた時だ。同じ浪人の友だちに菊池君という音楽の先生がいて、彼から数えきれないほどのアーティストとアルバムを教えてもらった。その中にこの作品があったのだ。その時、以前、NHK-FMの番組、渋谷陽一のサウンド・ストリートでの、彼が初めてプリズムのライブを観た時のコメントが記憶に残っていた。「いや〜、僕、プリズムというバンドは全く知らなくて、友人に連れてってもらったんですが、和田アキラのギターにはホント驚きましたね。演奏が始まるやいなや、ものすごいギター・ソロ。もう、アワワアワワアワワワワ・・・って言葉が出てこないんですよ。あんな速弾きギターは初めてです。(笑)」この渋谷陽一の馬鹿馬鹿しいコメントでプリズムというバンドの名前だけは私の頭の中にしっかりと刻み込まれていたのだ。そして、実際にそのサウンドを耳にして、アワワアワワアワワワワ・・・という気持ちが初めてわかった。

 この時期の私はまだクロスオーバーとかフュージョンとかジャズ・ロックとかいう音楽にほとんど触れたことがなかった。中学・高校時代はロック一本槍で聴いてきた。ジミー・ペイジ、リッチー・ブラックモア、ロバート・フリップ、スティブ・ハウ、スティーブ・ハケット、アンディ・ラティマー、デイヴ・ギルモア、トム・シュルツなどテクニックのある素晴らしいギタリストを何人も知っていたが、和田アキラのギターにはその誰にも似ていない、唯一無二の個性があった。 また、渡辺健のベースも凄いと思った。ベースは音楽の土台を作るものと考えていた私にとって、ベースがサウンドの前面に出てきていることに新しさを感じざるをえなかった。あのフレットレス・ベースが奏でるメロディーのカッコ良さ、リズムを支えるだけでないベースという楽器の新しい表現を見せられた感じがしたのだ。そして、なんといっても楽曲の素晴らしさである。プリズムが作るその音楽自体が私にとって初めて体験するサウンドであった。演奏される音のひとつひとつがキラキラと光り輝いていた。

 「モーニング・ライト」まさに朝の柔らかい光が窓から射し込んでくるような気持ちいいサウンドからアルバムは幕をあける。本当にいつ聴いても、何度聴いてもいい曲だ。この曲を聴くと今でもあの浪人生活を送っていた寮の四畳半の部屋を思い出す。窓にかかっていた安物のレース・カーテンから淡い光が部屋の中に射し込んでいる風景である。「ラヴ・ミー」やはり、プリズムのファーストで忘れることができない名曲だ。先にシングルで発売されていて、彼らのデビュー曲でもある。インストゥルメンタル・グループであるプリズムとしては珍しく女性ボーカルが入っている。やさしく、甘く切ない彼女の声からゆっくりと曲は始まるのだが、中間部から転調して曲は一気に加速して行く。そして、和田アキラのギターがラテンのリズムに乗っかり、泣きに泣きまくる展開になるのだ。サンタナの名曲「哀愁のヨーロッパ」「哀愁のボレロ」のフィーリングにとても近い。これもいつ聴いても、何度聴いてもいい曲なのだ。A面が終わりB面になると、曲調が変わる。柔らかくメロウなサウンドからクールで攻撃的なスピード感溢れる世界になって行く。A面でも和田アキラはギターを弾きまくっているのだが、さらにそのテンションが上がり、アワワアワワアワワワワ状態に・・・・。森園勝敏のギターも炸裂し、ふたりのギタリストのギター・バトルがスリリングに展開して行くのである。おそらく、ほとんどのプリズム・ファンは鳥肌でしょう。

 このアルバムは私が初めてジャズ・フュージョンという音楽ジャンルに足を踏み入れるきっかけになった大変な衝撃を受けた作品である。ピンク・フロイドの「おせっかい」でプログレシブ・ロックの世界にはまっていったように、私にとって特別なものなのだ。大袈裟に言えば人生を変えた一枚のひとつである。このアルバムからリー・リトナー、ラリーカールトン、リターン・トゥ・フォー・エバー、アル・ディメオラ、ジャコ・パストリアス、ウエザー・リポート、アラン・ホールズワース、パット・メセニーなど、ジャズ・フュージョン界の素晴らしい作品を知ることになったのだ。丁度、時代は80年代。一世を風靡した70年代プログレシブ.ロックは時代にそぐわない、ダサく、かっこわるい音楽になっていた。私の大好きなプログレシブ・ロックは音楽の表舞台から姿を消そうとしていた。当然、私の音楽志向も変わらざるをえなかったのである。そして、この時代のフュージョンという音楽はまさにプログレスする音楽であり、刺激的で音楽的レベルが高かった。2001年になって、ひさしぶりにこのアルバムを聴いてみたが、やっぱり凄いと思った。よくも平均年令20歳の日本の若者がこんなに複雑でありながらシンプルで力強い傑作を作ったものだと思う。演奏技術の高さにはもう脱帽するしかないし、作曲、アレンジそのすべてが生き生きしている。なんだか涙が出てくるなぁ。ほんと。

和田アキラ / ギター
森園勝敏 / ギター
渡辺健 / ベース
久米大作 / キーボード
伊藤幸毅 / キーボード
鈴木徹 / ドラム

評価:超A(滅多に出ない超傑作品)

(Hideyuki Oba 2001.3.8)
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