リターン・トゥ・フォーエヴァー(永遠への回帰)/チック・コリア
Return to forever /Chick Corea

1. Return to Forever
2. Crystal Silence
3. What Game Shall We Play Today
4. Sometime Ago / La Fiesta

1972年作

 このKEPYでは独断と偏見によりアーティストたちが作り出した作品を勝手に評価などしているけれど、その中に最高ランクに値する超Aという評価をつける作品がいくつかある。いつもこの評価をくだすときに大いに悩むことになるのだが、この評価というものは非常にあいまいなものである。しかも、「a」というアーティストの超Aと「b」というアーティストの超Aは同じ価値とは言えない。物理的に測定できない人のこころの中にある漠然とした基準でしか評価するしかないからだ。ま、だからこそ面白いのだけれど・・・。

 前書きが長くなってしまったが、この作品はKEPYの評価する超Aの中でも飛び抜けて超がつく作品であることは間違いない。プログレシブ・ロックという狭い世界ではなく、音楽全体の話として素晴らしい作品だと思う。「そんなことあんたに言われなくとも知ってるよ」という声が聞こえますが、良いものは良いとやはり言いたいのである。

 私がこのアルバムを聴いたのは大学に入ってすぐの頃、1981年だと思う。世の中はフュージョンがブームを越えて定着に向かおうとしていた時期である。国内外を問わず、素晴らしいジャズ・フュージョン・サウンドが世間をにぎわせていた。良いものもあり悪いものもあり、溢れるくらいのジャズ・フュージョン・サウンドが流れていた。リトナー、カールトン、ディメオラ、スタッフ、クルセイダーズ、パット・メセニー、ジャコ・パストリアス、ウエザー・リポート、日本勢ではプリズム、スクエア、カシオペア、松岡直也など、時代のサウンドとして自然に耳に入ってくる状況である。そんな中でこの作品に出会うことになった。

 当時、発売から10年を過ぎようとしていた作品であったが、古さなど微塵も感じられないサウンドだった。インパクトというより気持ちよさが私を包んでいたように思う。フュージョンという言葉が生まれる前にはクロスオーバーという言葉があった。そのクロスオーバーの代表が「Return to Forever」という作品である。チック・コリアという天才を一躍スターにした作品でもある。チックコリアは数え切れないくらいのアルバムを世に出しているが、チックコリアで一枚選ぶとしたら文句なしでこの作品を選ぶという人は相当の数に上るに違いない。アルバムジャケットも素敵である。大海原にカモメが飛んでいるだけ。人間の心の中の無限に広がる宇宙をも表現している感じがする。まさにここで聴けるサウンドはこのジャケット写真が表している世界に通じている。私はこの作品を聴く度にカモメになる。カモメになって無限に広がる海の上を飛翔するのである。

 一曲目の「Return to Forever」からラストの「Sometime Ago / La Fiesta」まで本当に心地よい風が吹いている。チックコリアのピアノがどうとか、ジョー・ファレルのフルートがどうとか、スタンリー・クラークのベースがとか、アイラート・モレイラのドラムに何とかとか、細かく解説を加えてもあまり意味がないように感じるのでここでは書かない。この作品は音楽が演奏者を離れて独立して存在している。誰がどう演奏しているということではなく、そこにいい音楽がある、ただそれだけなのだ。おそらく、この作品は今聴いても全く古さなど感じさせないだろう。時代に関係ない普遍的な価値があるのだ。さらに付け加えるならば、近頃テクノ・ミュージックの延長線上にフューチャー・ジャズと呼ばれる音楽の動きが現れている。コンピュータ&サンプラーによるテクノロジーを利用しながら、未来のジャズを描こうとしている。そのフューチャー・ジャズで生み出されているグルーヴ感はもうこの「Return to forever」という作品の中に溢れている。サウンドの作り方こそ違うものの、最終的に表現されるサウンド・イメージの共通点は多い。つまり、30年も前にすでに未来のジャズが作られていたのだ。未来は過去に存在していたのである。

Chick Corea (elp)
Joe Farrell (fl,ss,ts)
Stanley Clarke (b)
Airto Moreira (ds,perc)
Flora Purim (vo,perc)
                 評価:超A(滅多に出ない超傑作品)
( 大庭英亨 2001.11.01)

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